「三文小説」3つの文で綴る、さんぶん小説

「三文小説」T-54

3つの文で綴る、さんぶん小説

 

『タイムトンネル』

 

 いつの間にか晩婚組に入った僕は、婚約者の彼女を田舎の母に会わせるために、下りの特急列車に乗っていたが、彼女がトイレに立った時、僕は妙な目眩に襲われ、それから列車がトンネルに入る度に、窓に映る自分の顔を見ると、少しずつ若返っていくことに気が付いた。

 

 そして、その顔はいつしか6歳の時の自分の顔になり、驚いたことに、僕は離婚した母と二人で、母の田舎に向かう各駅停車の汽車の中にいて、それは今トンネルに入るところで、慌てて母は窓を閉めたが、一瞬の差で、煤煙は車内に入り込み、それが僕の目に入ったらしく、目の痛みを訴えると、母はハンカチの先を唾で湿らせ、僕の下瞼を下げて、煤煙の黒い粒を拭ってくれて、と、夢うつつを彷徨っていると、あの時、父と別れた寂しさと、下瞼から伝わる母の温もりがありありと思い出され、予想もしない涙が溢れ出てきた。

 

 目を開けると、彼女が僕の涙を拭いてくれていて

「あなた、夢を見ていたの?夢でも泣くのね」

「いや、多分目にゴミが入っただけだ」と言い訳する僕に

「いいわ、ワタシがゴミを取ってあげる」

と彼女はウェットティッシュをコヨリにして、僕の目を覗き込もうとするので

「大丈夫だ、涙で流れ出たみたいだから」

列車はまたトンネルに入り、僕達二人の顔が窓に映った。

入り、僕達二人の顔が窓に映